コンビニの神様
この間、通りを歩いていたら
神様に会ったんだ
神様はコンビニの前に座って
ショートホープを吸いながら
気持ち良さそうに
体を横に揺らして
傍らのラジカセから流れている
ボブ・マーレーの歌を口ずさんでいた
僕に気がつくと
神様は笑って
僕に言った
「やぁ、ブラザー!
私のところに来るときは
身分証明書も履歴書も
職務経歴書も、保証人も
ありとあらゆる資格のたぐいも
社員章や免許証
無理のないカルマの返済計画というやつも必要ない
申し訳ないが
私は君がどんな信仰を持っていようが
どこの政党を支持していようが
一日に何回マスターベーションをしようが
何百人の愛人を持っていようが
あるいは君がどれほど地域や職場で愛される
善良な人間であろうが
または自分でも我慢できないような
邪悪な人間であろうが・・・
そんなことにはまったく興味がないんだ
どうも君たち人間が
私になにかを証明しようとするたびに
わたしにはまるでいくつもの箱に入れられ
何枚もの包装紙にグルグルと
包まれたプレゼントのように
君たちが見えなくなってしまうんだよ
私はまっさらの白紙と色とりどりの
色えんぴつを手に
君たちをここに送り出した
君が描く
君だけの絵を見せてもらうためだ
ところが君はどんな絵を描くかよりも
なんのために描くか
どんなにすぐれた絵を描くか
どう描けば批判のない
まずまずの平均的な絵が描けるか
そんなことばかり考え
人の描いた絵を批判し
自分の描いた作品を恥じ
ときに他者の作品を傷つけたり
自分の作品を破り捨てたりする」
神様は立ち上がり
おいしそうにショートホープの煙を吸い込むと
僕にウインクした
「君たちにひとつだけアドバイスできることがあるとすれば」
神様はそう言うと煙草を灰皿でもみ消し
ラジカセを自転車の荷台に乗せ
相変わらず、ボブ・マーレーを口ずさみながら
僕を振り返った
「君たちは考えすぎだ」
そう言って笑うと神様は
夕日の向こうにゆっくりと去っていった
自転車にまたがって
ボブ・マーレーの歌声とともに